日本とフィンランドとの高齢者福祉の比較調査報告書
(1995年6月)
安 立 清 史
(1)調査の設計
本調査は、日本とフィンランドにおける、高齢者をめぐる家族ネットワーク、地域ネットワーク、福祉サービス・ネットワークなどを総合的に把握し、高齢者を支える社会的ネットワークの全体像を浮かび上がらせ、日本とフィンランドとの共通性および差異を明確化し、両国の高齢者福祉に資することを目的として設計された。
調査票の全体は、4つの部分からなる。第一は、家族や家族のあり方についての設問である。家族についての実態や価値観の日本とフィンランドとの比較を行うために、家族員数や家族構成、家族との接触・交流頻度などの基礎的なことをはじめ、親子の同居についての価値観、望ましい老後の生き方についての価値観などをおいた。第二は、地域社会についてである。高齢者をめぐる社会的ネットワークは、第一に家族であろうが、ついで重要なものが友人や近隣者を含む地域社会ネットワークであろう。地域社会ネットワークを調べるために居住歴、近隣の人たちとの接触頻度、地域社会活動への参加、近所づきあいに関する意見や価値観、定住意志などを聞いた。第三は、日本とフィンランドとの価値観や意識の全体的な比較を行うため、標準的な尺度スケール(PGC モラルスケール)等を用いた設問を聞いた。これを用いて、Fスコアやアノミースコア算出し、抑圧感や疎外感などの比較を行う。第四に、福祉サービスについての設問である。主観的健康感、福祉サービスについての認知度とその利用についての意識、さらに被調査者が日常的な介護を必要とするようになった場合の望ましい福祉サービスや子どもが親を介護する場合の価値観なども聞いた。その後、基本的な属性を聞いている。
全体として、家族状況、家族関係、家族観、地域社会との交流状況、地域社会への関わり方の度合い、地域社会観などの高齢者をめぐる社会関係と、高齢者の主観的意識状況、福祉サービスの認知や利用意図などを聞くことにより、高齢者をめぐる家族や地域社会の関係の基礎的な姿が浮かびあがるように設計された。この基礎的なデータをもとに、さらに詳しく具体的に福祉サービスの利用状況を訪問調査で調べたものが第二次調査ということになる。
以下、調査結果を概観していく。
(T)高齢者と家族
高齢者にとって家族は、もっとも重要な社会的ネットワークであり、介護やサポート・ネットワークでありうる。高齢者と家族との関係のあり方は、高齢者の暮らしや福祉と大きな関連性を持つ。しかしながら、家族のあり方は、国によって大きく異なり、とりわけ社会構造や文化・価値観によって大きく左右されるものである。とりわけ日本的な家族と欧米の家族とでは大きく異なるということは家族社会学ではよく知られた事実であるが、具体的にどう異なるかについては、実証的なデータがあまりなかった。特に伝統的に直系家族制度を中心としてきた日本と、核家族制度が広くゆきわたっているフィンランドとでは大きく違うだろうということは予測されたことではあったが、具体的にどのように異なるのか、実証的に比較調査研究したデータはほとんどなかった。今回の調査では、家族のあり方、同居のあり方についての具体的な実証データが得られた。さらに家族のあり方に関する価値意識の比較データも得られている。また、日本の家族についても、都市近郊の住宅地である鎌倉と、地方の農村部の御調の比較が可能となっている。高齢者と家族についての結果を概観してみよう。
1.家族の状況
まず、さまざまな家族成員との同居状況を聞くことにより、家族規模や同居の状況を調べた。
家族規模は、平均家族員数を比較すると、鎌倉で平均3.4人、御調で3.5人にたいし、トゥルクではわずか1.6人と大きな違いがあった。これは後に見るように、鎌倉や御調では子どもや子どもの家族との同居が依然として多いのにたいし、トゥルクでは成人した子どもとの同居は、例外的な場合をのぞいてほとんどない、ということによる。
ついで家族類型別に3地点の特徴を見よう。家族類型は、どのような家族員と同居しているかによって決まってくる。家族類型には、大きく分けて、核家族(夫婦とその子からなる家族、夫婦のみ家族を含む。子どもは成人したり、結婚したりすると親とは同居しない)と拡大家族(子どもが,成人したり、結婚したあとも親と同居をつづける家族類型)とに分かれる。拡大家族は、さらに、ただ1人の子どもの家族と同居をつづける直系家族(日本では、長男およびその家族と同居を続ける形態がもっとも多かった)、複数の子どもとの同居をつづける複合家族が区別できる。日本では、跡取りのただ1人の子ども(主として長男)およびその家族との同居によって構成される直系家族が、戦前までの家族類型の多くを占めていた。また近年では、成人した子どもとは同居せず、老後は夫婦だけで暮らす核家族も増加している。しかしながら、フィンランドを含む欧米では、一般に成人した子どもと同居する習慣がなく、核家族が家族類型の大部分を占めている。今回の調査では、家族との同居の状態を聞くことを通じて、家族類型を推計した。ただし、厳密な家族類型の算出は、郵送調査では困難なこと、およびフィンランドには直系家族という概念自体がないことなどを勘案し、今回の調査では、一人暮らし、夫婦のみ家族、配偶者以外の親族と同居している拡大家族、その他(非親族との同居などを含む拡大家族)の4類型として集計した。
まず一人暮らしは、鎌倉(9.6%)、御調(6.8)にたいし、トゥルクでは45.8%にものぼる。トゥルクのほぼ半数近くの高齢者が一人暮らしをしていることが分かる。性別にみると、3地点とも男性よりも女性のほうが、著しく一人暮らし率が高い。たとえばトゥルクでは、男性が21.2%なのにたいし、女性では58.8%が一人暮らしである。鎌倉では、同様に3.7%と14.0%、御調で3.3%と9.9%というように、どの地点でも男性よりも女性の一人暮らし率が高かった。年齢階層別にみると、意外なことに、一人暮らし比率は、あまり年齢と関連していないことが分かった。わずかに85歳以上では、一人暮らし比率が下がるが、その他の年齢階層では、そう大きな違いは見いだせない。地域別にみると、鎌倉では、年齢があがるほどに一人暮らしが減少していき、同居に移行していることを予想させる。御調では、80代以降急激に一人暮らしが減少するが、一人暮らしの絶対数が少ない。トゥルクでは、わずかに85歳以上層で一人暮らしが減るが、その他の年齢階層ではそれほど大きな違いは認められない。健康状態別にみると、鎌倉や御調では健康状態にほとんど関わりなく同居が多く、トゥルクでもまた健康状態とあまり相関なく一人暮らしが多いことがわかる。御調や鎌倉では、健康なうちは一人暮らしをし、健康が衰えたら同居に移行するのではないかと思われたが、この結果からみると、一人暮らしを規定する要因は、健康状態ではなさそうである。
夫婦のみ家族は、鎌倉(36.8%)、御調(28.5)にたいし、トゥルクでは44.8%である。トゥルクの場合には、一人暮らしと夫婦のみ家族がほぼ家族類型を二分している。また3地点とも、性別に分けてみた場合、女性よりも男性のほうが夫婦のみ家族に暮らしている比率が著しく高い。また当然のことながら、3地点とも夫婦のみ家族比率は、年齢ときれいに逆相関している。また、健康状態とはほとんど関連性が認められない。
親族との同居家族(2世代、3世代同居などを含む家族)は、鎌倉(51.1%)、御調(58.9)と非常に高いのにくらべ、トゥルクではわずか6.6%にすぎない。性別にみると、鎌倉、御調ともに男性よりも女性のほうが親族との同居比率が高い。トゥルクでは性別に関係なく低い。年齢階層別にみると、鎌倉の場合には、70代後半を境に家族と同居する比率が大きくなる。この年齢期に家族との同居に移行する人が多いことを予想させる。御調の場合には、年齢にあまり関係なく同居が多い。トゥルクの場合にも年齢に関係なく同居はきわめて少ない。御調の場合にも、トゥルクの場合にも、年齢という要素はあまり同居・非同居の選択に影響を与える要因ではないようであるが、鎌倉の場合には、親の年齢が上がるにしたがって、子どもとの同居が増えてゆく傾向が現れている。健康状態との関連を見ると、意外なことに、鎌倉、御調、トゥルクともにほとんど関連がない。親の健康が衰えるにしたがって子との同居が増えるという傾向は認められない。親子の同居を規定する要因は、親の健康状態ではなさそうである。
非親族との同居によるその他家族は、鎌倉(1.0%)、御調(0.8)、トゥルクでも1.4%とと非常に少なかった。
日本の高齢者の一人暮らしが非常に少ないことと、子どもとの同居による拡大家族の中に暮らしている高齢者が依然として半数を越えていることが、トゥルクとの比較で際だっている。トゥルクの場合には、家族の同居は、夫婦のみであることを基本にしており、後に見るように、親が病気になったり、一人暮らしになっても、子どもが親と同居を始めるということは、ほとんどない。それにたいし、日本では、いまだに高齢者は、子ども家族と同居することが多い。しかしながら、鎌倉と御調を比べると分かるように、次第に子どもとの同居は減少しつつあり、一人暮らしや夫婦のみ世帯も増加する傾向にある。
配偶者との同居比率は、鎌倉64.2%、御調51.0%にたいし、トゥルクでは46.7%であった。
既婚の息子との同居比率は、日本とフィンランドとの同居についての基本的な価値観の相違を反映しており興味深い。フィンランドでは、既婚の息子との同居がゼロであった。鎌倉(16%)、御調(34%)と鎌倉では御調の半分の同居率にとどまってはいるものの依然として、長男などの家族との同居が多いことを示している。既婚の娘との同居も鎌倉で8%、御調で10%ある。トゥルクではゼロであった。以下、婿との同居が鎌倉で7%、御調で9%、トゥルクでは0.1%にすぎない。嫁との同居も鎌倉で16%、御調で34%なのにたいし、トゥルクで0.3%となっている。
このように、潜在・顕在含めて3世代同居家族というものがトゥルクにはほとんど存在しないのにたいし、日本では減少したとはいえ、依然かなりの高率で存在していることが大きな対照を示している。
未婚の子との同居は、トゥルク4%、鎌倉で17%、御調で7%となっている。また孫との同居は、トゥルクでわずか0.7%なのにたいし、鎌倉で24%、御調では39%もあり、これまた大きな対照を示している。
これらを総合すると、トゥルクでは、子どもや子どもの家族との同居、すなわち2世代、3世代同居は、例外的な少数であるということが分かる。それにたいし、3世代同居は、鎌倉で24%、御調で39%もあり、3世代同居にすすむ可能性の高い2世代同居も、鎌倉で約25%、御調で39%ある。これは、日本とフィンランドとおおきな違いである。また直系家族以外の拡大家族をみると、鎌倉(5%)、御調(7%)にたいし、トゥルクでは1%、非親族との同居は日本とフィンランドともに例外的な少数にとどまっている。
一人暮らしの高齢者は、トゥルクで46%にものぼるのにたいし、鎌倉で約10%、御調では約7%にすぎず、これまた大きな対照を示している。
2.子どもとの交流状況
日本とフィンランドとでは、同居していない子どもとの接触状況はどう違うだろうか。離れて暮らしている子どもと、どの程度会っているかを聞いた。これまで、直系家族制度の長い歴史もあり、日本の家族は、同居している親と子どもとの接触は密だが、同居している子ども以外の子どもとの接触は、外国にくらべて少ないと言われてきた。
離れて暮らしている子どもはいない、という答えの人を除いて計算すると、日本では「年に数回程度」(鎌倉39%、御調44%)が最も多く、ついで「月に数回程度」(鎌倉29%、御調31%)が続く。別居子と週に1回以上会う高齢者は、鎌倉で32%、御調で25%である。御調の場合、都市部に働きに出た子どもとの接触頻度が減るのは当然だが、鎌倉の場合にも同居子以外の子どもとの接触は極端に減ることが分かる。日本の場合、同居しないと親子の接触は極端に減る傾向が明らかに認められる。
トゥルクで最も多かったのは「週に1日程度」(34%)であり、ほとんど毎日(16%)、「二日に1回程度」(18%)も日本に比べて多い。反面、「年に数回程度」はわずか13%程度しかない。週に1回以上会う関係は、全体のなんと68%に達している。トゥルクの場合には、同居する親子関係はほとんどないものの、別居して暮らす親子の接触は、日本よりはるかに密であることが分かる。
鎌倉でも御調でも親子が同居する比率はトゥルクよりはるかに高いが、反面、同居子以外の子との接触はトゥルクにくらべ大変低く、高齢者の家族との関係が、日本の場合には同居子に集中・収斂していく傾向が顕著に認められるのにたいし、トゥルクの場合には、同居しての密な関係はないものの、子どもたちとの行き来や接触は日本よりはるかに頻繁で家族ネットワークが日本と違ったかたちで機能していることが分かる。
日本の場合、同居していれば、子どもとの日常的な濃密な接触といざという場合の介護や看護が期待できる反面、同居していない子との接触は極端に減る傾向があることから、高齢者には同居しないことへの不安がつのり、結果的に同居志向が強まっていると見ることも出来る。トゥルクの場合には、そのようなことはなく、同居しないことが逆に幅広く頻繁な子どもたちとの接触をもたらしていると見ることも出来よう。
性別にみても、傾向に大きな違いは認められない。男女ともに、トゥルクでもっとも非同居子との交流頻度が高い。年齢階層別に見てもほぼ同じ傾向である。高齢者の健康状態別にみてもほぼ同じであるが、トゥルクの場合には、回答者の健康状態が「全く健康でない」になると、子どもとの接触頻度が急激に高まる(毎日が25%、二日に一度程度が14.3%)が、御調や鎌倉にはそうした傾向は認められない。トゥルクでは、高齢者の健康が衰えたり病気がちになると、子どもたちが頻繁に親のもとを訪れるようになる傾向が明らかに認められるが、日本の場合にはそうした傾向が現れない。これは、同居家族にのみが、介護や看護をひきうけるからであろうか。日本では、非同居子たちの親との接触パターンは、親の健康が悪化しても変化していない。
3.同居についての考え方
家族類型(直系家族や核家族など)は、子どもとの同居の仕方の違いによって生み出される家族のあり方の違いであるから、同居についての考え方の違いは、家族類型の違いを生み出す重要な要因である。日本とフィンランドとの比較により、たいへん興味深い結果が得られた。
設問では、既婚の子ども、あるいは成人した子どもと、親との同居の是非について聞いている。設問は3つの条件のもとで、親子の同居についてどう思うか聞いたが、第一は、親がそろって元気な場合、第二は親のどちらかが介護を必要とする場合、第三は、親が一人暮らしになった場合、である。
まず、親がそろって元気な場合の親子同居については、親子が同居したほうが良いとする比率は、鎌倉26%、御調60%、トゥルク4%であった。反対に別居したほうが良いとする比率は、鎌倉54%、御調26%、トゥルク81%となっている。どちらとも言えないは、それぞれ14〜20%程度あった。
性別による差異はほとんどなかった。年齢階層別にみると、日本では、85歳以上の層では、親がそろって元気でも同居したほうが良いとする人が、御調で88.9%、鎌倉で46.9%と他の年齢層にくらべて高くなる。トゥルクでは、年齢による違いはあまり見られなかった。回答者の健康状態は、あまり大きな違いを示していない。
親のどちらかが介護を必要とするようになった場合では、親子が同居したほうが良いとする比率は、鎌倉49%、御調75%、トゥルク6%であった。反対に別居したほうが良いとする比率は、鎌倉18%、御調8%、トゥルク66%となっている。どちらとも言えないは、この場合には増加して、鎌倉で33%、御調で17%、トゥルクでも28%あった。
この場合にも、性別による違いはあまりない。年齢階層別にみると、日本では、80歳以上の層では、親が介護を必要とするようになったら、同居したほうが良いとする人が、御調で90.9%、鎌倉で63.2%と他の年齢層にくらべて急激に高くなる。85歳以上層でも同様な傾向である。トゥルクでは、年齢による違いはあまり見られなかった。ただ、85歳以上層では、トゥルクでも13.7%の人が同居を好ましいとしており、他の年齢層とは異なっている。また、回答者の健康状態は、日本の場合、あまり大きな違いを示す要因ではなかったが、トゥルクの場合には、「全く健康でない」と答えた人では、21.7%もの人が、同居を好ましいとして選好していることが目立っている。
ついで、親が一人暮らしになった場合には、親子が同居したほうが良いとする比率は、鎌倉51%、御調76%、トゥルク7%であった。反対に別居したほうが良いとする比率は、鎌倉22%、御調8%、トゥルク70%となっている。どちらとも言えないは、鎌倉で27%、御調で17%、トゥルクでも24%あった。
ここでも性別による違いはほとんどない。年齢階層別にみると、日本では、御調も鎌倉もともに、80代以上の層で、急激に、同居を好ましいとする層が増加する。とくに85歳以上層では、御調で88.9%、鎌倉も71.1%の人が同居を好ましいとしている。トゥルクでも13.5%の人が同居を選好しており、他の年齢階層とは際だっているものの、日本とは大きな違いがあった。回答者の健康状態は、日本の場合、ここでも、あまり大きな違いを示す要因ではなかったが、トゥルクの場合には、「全く健康でない」と答えた人では、22.2%もの人が、同居を好ましいとして選好していることが目立っている。
*
これらの結果を総合すると、トゥルクでは、核家族としての家族のあり方が一貫しており親子は同居しないという原則がどのような場合でも一貫しているのにたいし、日本では、農村部の御調では、直系家族制の意識が強くのこっていて、どのような場合でも親子は同居するほうが望ましいとする意識が強い。それにたいし、都市近郊の鎌倉では、親子同居についての価値観は揺れており、親が健康なうちは別居が望ましいが、親が介護を必要とする状況になったり、一人暮らしになったりした場合には、やはり子どもと同居したいとする人がほぼ半数に達している。鎌倉では、御調に比べると総体的に同居志向は低いが、別居したほうが良いとする人の比率は、さほど高くなく、どちらとも言えないと答えた人も多かったことから、内心では同居を望むものの、子ども側の考え方の変化や住宅状況などを勘案して、同居が本当は望ましいが現実には無理なのではないかと判断した人も多かったのではないかと推測される。
トゥルクでは、家族は基本的に核家族なので、そもそも同居が望ましいという価値観自体が存在せず、日本のような親子同居にもとづく拡大家族のあり方が想像しにくいのかもしれない。核家族のあり方が一貫しており、親と子は、親が元気であろうと、介護を必要とする状況であろうと、一人暮らしになろうと、同居しない、同居しないほうが良いとする人が多数を占めており、同居したほうが良いという人は、どの場合にもきわめて少数ですある。ただし、トゥルクの場合にも、親が介護を必要とするようになった場合には、どちらとも言えないとする人が約28%おり、同居を志向してはいないものの、従来のような施設中心の介護だけでは不安をいだく高齢者も相当数いることを示唆しているように思われる。
4.老後の生き方
日本とフィンランドとで、老後の望ましい生き方に、どのような価値観の差異があるだろうか。いくつかの価値観の軸をたててそれぞれ独立に聞いてみた。
まず「子どもや孫など家族と一緒になごやかに暮らす」という伝統的な大家族志向、共同体としての家族志向の価値観はどうだろうか。トゥルクで約15%と低いのにたいし、鎌倉では約45%、御調では72%を越えている。トゥルクでは同居して暮らす家族というものを理想の家族像、望ましい老後生活像とみなしていないのにたいし、御調では伝統的な家族観にもとづくこうした家族像が強く支持されていることが分かる。都市部の鎌倉はその中間にあって揺れているともみられる。依然としてこうした日本的な家族共同体観は強いものの、過半数の人は積極的に望ましくないか、もしくは不可能とみて選択していない。親子同居にもとづく理想の家族像は、都市部からしだいに浸食されていっているとみられる。
性別による違いは日本の場合には、あまり大きくないが、トゥルクの場合には、こうした価値観を選択する人が、男性では10.9%なのにたいし、女性では16.9%と高くなっている。また、年齢階層別にみると、後期高齢者になるほど、この価値観を好ましいとする人が増える傾向にある。たとえば御調では、80代後半で82.6%、80代後半では88.9%の人がこうした老後の生き方を望ましいとしている。また、トゥルクでも、70代後半から急にこの価値観を選択する人が多くなり、70代後半で19.8%、80代前半で19.2%、80代後半以上では17.7%の人がこうした生き方を好ましいとしている。しかしながら日本の場合とは大きな違いがある。
ついで「夫婦ふたりだけでみつまじく暮らす」は、トゥルクでは約52%の人が支持しており、同居志向を聞いた上の選択肢と対照を成している。反面、御調では23%の人しか支持していない。鎌倉では42%が支持しており、核家族志向と同居志向とがほぼ拮抗していることを示している。
性別にみると興味深い結果があらわれる。すべての地点で、女性よりも男性のほうがこの選択肢を望ましい老後の生き方として選択する傾向が強くあらわれている。たとえば、男性では、鎌倉(51.0%)、御調(32.6)、トゥルク(76.1)なのにたいし、女性では、鎌倉(36.4%)、御調(19.0)、トゥルク(38.8)となっている。この選択肢に関しては、とりわけ男女差が大きくでるのは興味深い。年齢階層別にみると、すべての地点で、年齢が上がるほどに、この選択肢を選ぶ人の比率が少なくなることが分かる。とくに70代後半以降、急に少なくなる傾向が認められる。
「自分だけの趣味を持ち、好きなように余生を送る」は、トゥルクで44.3%と高く個人主義の片鱗をのぞかせている。また鎌倉でも約36%と高い。反面、御調では17%とどまっている。
性別にみても違いはほとんどない。年齢階層別にみると、年齢が上がるほどに、この選択肢を選ぶ人の比率が少なくなる。とくに70代後半以降、急に少なくなる傾向が、3地点すべてを通じて認められる。
「できるだけ自分に出来る程度の仕事を持ち続ける」は、日本の高齢者の場合、仕事が生きがいであるとする人の比率が高いという他の調査結果を参照しながら作成した選択肢であったが、或る意味で大変日本的な価値観にもとづく選択肢だったのかもしれない。トゥルクではわずか9%の人しか、この選択肢を望ましいとみなしていない。トゥルクでは老後は仕事=労働とは無縁の世界で生きたいと思うようだ。反面、御調では約65%、鎌倉でも44%の人が、これを望ましい老後像として選択しており、トゥルクとの大きな対照を見せている。
この選択肢の結果に関しては、性別や年齢階層別による違いがあまりない。
「多くの友人や仲間を持ち、仲間と交流しながら楽しく過ごす」は、鎌倉で50%、御調で53%、トゥルクで43%と、さほど大きな差異は認められなかった。意外だったのは、この選択肢は、日本よりもむしろトゥルクで選好されるのではないかと予測していたのが逆になったことである。今回の選択肢の中でトゥルクの人たちによってもっとも支持されたものでも「夫婦二人だけでむつまじく暮らす」の52%であり、フィンランドの高齢者にとっての本当に望ましい選択肢が入っていなかったのではないかととも思われ、今後の研究課題として残されることになった。
年齢階層別にみると、80代以上では、この選択肢を選好する人は減少する傾向があった。また性別にみると興味深い結果がえられた。男性よりも女性のほうが、この選択肢を選好する比率が有意に高いのである。たとえば、男性では、鎌倉(43.0%)、御調(47.8)、トゥルク(33.6)なのにたいし、女性では、鎌倉(54.7%)、御調(57.0)、トゥルク(47.7)となっている。こうした男女差が現れる原因としては、価値観の要因のほかに、女性のほうが男性よりも平均余命が長く、結婚時年齢にも違いがあるので、高齢になるにしたがって、一人暮らしや家族との同居比率が高くなるという事実があるだろう。しかし、「夫婦二人だけでむつまじく暮らす」という選択肢が、女性よりも男性により選好され、「友人や仲間と交流しながら暮らす」が男性よりも女性により選好されるという事実は、たいへん興味深い。
「社会のためになるような活動に打ち込む」も、日本よりトゥルクで選好されるのではないかと予測していたのだが、結果的には、トゥルクではわずか9%であった。対照的に、鎌倉で24%、御調で19%あった。
性別にみると、日本の2地点では、女性よりも男性のほうがこの選択肢を選好する比率がより高く、はんたいにトゥルクでは、男性よりも女性のほうがやや多く選択している。
総合すると、望ましい老後観には、日本の伝統的家族志向にたいし、フィンランドの核家族志向、とりわけ夫婦志向の違いがくっきりとあらわれた。また、日本では仕事を持ち続けるのが生きがいにつながるので望ましい老後観の一部を構成しているのにたいし、フィンランドでは「仕事」と無縁なのが望ましい老後の姿であるという大きな違いが見られた。ただし、日本でも御調と鎌倉とではかなり顕著な違いがみられ、鎌倉よりも御調のほうに、はるかに伝統的な家族像に包まれた老後を望ましいとみる人が多い。反面、鎌倉では2世代・3世代同居の老後よりも、夫婦二人だけの老後を望ましいとみる人が御調よりもはるかに多い。日本でも都市部から次第に核家族制を前提とした老後の価値観が浸透しはじめているのかもしれない。
(2)高齢者と地域社会
家族についで高齢者の社会的ネットワークとして重要な近隣との交流など、地域社会と高齢者とのつながりを聞いた。日本とフィンランドとで、高齢者と地域社会との関係はどう異なっているだろうか。日本の中でも、都市部と農村部とではどう異なっているだろうか。高齢者を支える重要な社会資源としての地域社会ネットワークの状況および地域社会との関わり方全般、および地域社会とのつき合い方などについて聞いた。
1.居住歴
地域の社会関係の基礎となる居住歴を聞いた。いずれの地域でも居住歴は長く、最頻値はいずれも「20年以上」(鎌倉62%、御調56%、トゥルク54%)である。ただし社会的移動と関連して「生まれてからずっと」という人は、鎌倉7%、トゥルク6%であるが、御調は35%と際だって高い。いずれの地域でも居住歴が5年未満の人は5%以下と少なかった。設問形式から平均居住年数を算出するのは困難だが、最頻値などから推定して鎌倉とトゥルクで20年内外、御調ではそれ以上と推定される。
2.近隣との接触頻度
近隣との交流接触回数を聞いた。最頻値は、御調とトゥルクで「ほとんど毎日」(御調38.5%、トゥルク30%)なのにたいし、鎌倉では「月に数回程度」(26%)であった。鎌倉の場合「ほとんど毎日」(15%)も比較的少なく、「近隣の人たちと会うことはほとんどない」も15.5%と3地域の中で最も高かった。3地域ともに、週に1回以上近隣の人と交流している人が大多数を占めているが(御調80.4%、トゥルク62%、鎌倉49.3%)、3地域の中では、御調が近隣との交流がもっとも濃く、ついでトゥルクであり、鎌倉は、やや近隣との交際を敬遠しがちな層も存在しているようである。
3.地域の団体やサークルへの参加
高齢者の地域社会ネットワーク形成の契機として、様々な既存の地域団体やグループ、サークルへの参加や活動がある。地域での様々な団体やグループ、サークルなどを通じて地域社会的ネットワークが形成されてくるのではないか。したがって、地域社会の様々な団体や活動への参加は、高齢者の社会参加や、それを通じての高齢者のソーシャル・サポート・ネットワーク形成と関連があると考えられる。そこで、様々な地域団体やサークルなどへの参加の有無と参加の積極性を聞いた。
まず、「婦人会」に関しては、性別のクロス集計を行ったところ顕著な違いが現れた。もっとも高い参加を示したのがトゥルクで約23%が積極的参加・活動していると答えている。トゥルクの「WOMEN'S
ASSOCIATION」を日本の婦人会と単純に比較することは出来ないが、トゥルクの高齢女性の地域団体への積極的参加がうかがえる。鎌倉ではわずか6.3%のみが積極的参加・活動であり、加入はしているが活動はしていない(6.3%)も同様に少なく、鎌倉の高齢女性は、伝統的な婦人会にはあまり参加も活動もしていない傾向がうかがわれる。反対に、御調では積極的参加・活動が15%、加入はしているが活動はしていない(16.2%)と鎌倉にくらべ格段に高い価を示している。鎌倉では婦人会活動は低調のようだが、御調では活発な様子がうかがわれる。
「老人クラブ」に関しても同様な傾向が現れている。御調では、積極的参加・活動が30%、加入はしているが活動はしていない(21.6%)も高率である。不参加は48%であった。反面、鎌倉では積極的参加・活動が11%、加入はしているが活動はしていない(15.2%)も低く、不参加は74%近くにものぼっている。老人クラブは、御調ではかなり活発であるが、鎌倉では低調だという対照が現れている。トゥルクの場合には、SENIOR
CITIZENS'
CLUB への積極的参加・活動は、約26%、不参加は54%とどまっており、御調とかなり似た傾向がうかがわれる。トゥルクでも老人クラブ活動はかなり活発である様子がうかがわれる。
では「趣味・習い事・教養のサークル」はどうであろうか。ここでは鎌倉がもっともアクティブである。積極的参加・活動は38.3%にのぼっている。これは、御調(31%)、トゥルク(20%)をかなり上回っている。伝統的な地域団体への参加には消極的だが、文化や教養の活動には積極的な鎌倉の高齢者像が浮かび上がる。
「健康・スポーツの団体・サークル」では、3地域であまりおおきな差異は認められなかった。どの地域でも15〜20%の高齢者がこうした活動に積極的に関わっている。
「社会福祉・ボランティア活動」に関しては、トゥルクでもっとも多く積極的活動している人がいた(12.2%)。鎌倉(8.4%)、御調(7.8%)ともトゥルクには及ばない。しかしながら、御調ではこうした団体に加入しているとする人が23.3%にものぼり、積極的には活動していないが、福祉活動の土壌の幅広さを見せている。加入していない、とする人の比率も御調がもっとも少ない。
「市民運動・住民運動団体」は3地域でさほど大きな差はなかったが、わずかにトゥルクで多い(英語版では
POLITICAL
GROUPであり、労働組合運動や政治活動を幅広く含むニュアンスを持つ)
「町内会・自治会」は、日本独自の団体であり、厳密な国際比較は出来ない。しかし鎌倉と御調とを比較すると、顕著な違いがあり、積極的活動層は御調(17%)が鎌倉(11%)よりも多いが、消極的参加層は、鎌倉(44%)が御調(13%)を大きく上回っているのである。結果的に、鎌倉では不参加層は45%程度であるが、御調では70%にのぼっている。農村部の御調で高齢者の町内会・自治会活動が低調だというのは意外であった。
トゥルクの場合には、COMMUNITY ACTION GROUP として聞いているが、積極的参加(10%),消極的参加(13%)といったところであった。
総合すると、鎌倉の場合には、伝統的な婦人会や老人クラブへの参加は低調だが、反面、文化や教養のクラブやサークルへの参加が活発である。御調の場合には、婦人会や老人クラブへの参加が高く、また、社会福祉・ボランティア活動団体への登録・参加も高い。これは町の福祉政策を反映していると見られる。トゥルクでは、婦人層のアクティブさが目立っている。
5.日常的な地域活動への参加
高齢者の地域社会ネットワーク形成の契機として、前設問では、様々な既存の地域団体やグループ、サークルへの参加や活動を聞いたが、団体やグループへの参加を通じて、地域社会に関わるタイプと、そうした団体やグループ活動を経由せず、個人レベルでの様々な活動を通じて地域社会に関わるタイプがありうる。日本の高齢者の場合、個人レベルでの活動よりは、団体やグループに関わることによって、様々な地域活動に関与する比率が高まり、反対にフィンランドでは、日本のような集団志向、団体志向ではなく、個人志向の社会・文化が背景にあるので、高齢者の社会参加活動も、団体を経由するのではなく、個人レベルでの活動がメインになるのではないか、これがこの設問を設けた仮説的背景である。いずれにせよ、高齢者の社会的ネットワーク形成には、高齢者自身の地域社会への関わりが必要なはずで、これらの設問では、地域社会への関わり方のタイプを区別しながら、日本とフィンランドとの比較を行おうと考えた。
結果を概観してみよう。
「家の修繕や庭まわりの軽い仕事」は、鎌倉でやや低い(63%)が、御調もトゥルクも70%程度であまり大きな違いはない。「孫や子どもの世話」は、御調でもっとも高く(28.5%),鎌倉がそれに次ぐ(17.5%)が、トゥルクでは8.4%と低い。これは、同居率が高い御調と同居がほとんどないトゥルク、その中間の鎌倉の家族のあり方が、結果に反映している。「スポーツ」に関しては、御調が総体的に少なく(14.8%)、トゥルクで大変多い(56.8%)。鎌倉はその中間(21.6%)となる。「友人たちと会っておしゃべりをする」も、トゥルクで多く(48.3%)、御調(38.8%)や鎌倉(33.1%)を上まわっている。「クラブ活動や社交活動」には大きな差異はなかったが、トゥルク(15.4%)が鎌倉(10.9%)や御調(12.2%)をやや上回る。「囲碁や将棋、トランプやビンゴ」は、トゥルクで高く(15.8%)、鎌倉(7.6%)や御調(2.7%)を大きく上回っている。反面、「リラックスしてのんびり寝転がっている」もトゥルクでたいへん高く(57.3%)、20%台の鎌倉や御調を大きく上回る。これは、「リラックスすること」を肯定的な活動として位置づけるフィンランド文化と、そうでない日本文化との違いに由来するものかもしれない。「宗教団体の集会」も、トゥルクでやや高く(16.5%)、御調がそれに次ぎ(12.9%)鎌倉では少ない(8.0%)。
総合すると、子ども世代の家族との同居のないトゥルクでは、孫や子どもの世話は少ないものの、「友人たちと会う」活動が日本よりも有意に高く、したがってスポーツやゲームを友人たちと楽しんでいる人が多い。またリラックスすることを重要な活動のひとつとして位置づけている様子もうかがえる。日本の場合には、やはり家族や集団への志向がフィンランドよりも強いので、個人ベースでの活動よりはグループ中心の活動のほうが多いようである。
6.近所づきあいについての価値観
近隣とのつき合い方を大きく左右し、高齢者の社会的ネットワーク形成に大きく関わる要因の一つとして、近所づきあいについての価値観があげられよう。とりわけ都市化していく過程で、近所づきあいが伝統的な地縁や血縁だけを基礎には維持できなくなり、様々な地域コミュニティの解体をもたらしているとされるだけに、近所づきあいについての考え方は、高齢者の地域社会との関係を考えるうえで大きな要因の一つである。
日本とフィンランドとの比較では、大きな差異が見られた。まず「近所づきあいは当然である」とする比率は、御調でもっとも高く(94.6%)、ついで鎌倉(81.5%)であるが、トゥルクでは56.8%にとどまっている。逆に「近所づきあいはわずらわしいことが多いのでしたくない」は、御調でゼロ、鎌倉でもわずか4%なのにたいし、トゥルクでは12.9%となっている。すでに見てきた友人や家族との交流頻度では、トゥルクのほうが御調や鎌倉よりも頻繁であったことと併せて考えると、トゥルクの場合には、近隣者がそのまま交流ネットワークとなるのではなく、近所づきあいと交流ネットワークとは重なる場合も多いが(トゥルクでも積極・消極合わせると84.6%の人が近所づきあいは必要と認めている)、必ずしも同じものではないことが見て取れる。トゥルクでは、近所づきあいは近所づきあいであり、社交や交流のネットワークとは一応別ものなのである。ところが、日本では、とりわけ御調では、近所づきあいすなわち社会的ネットワークそのものなのであろう。御調の場合には、ほぼ全員が近所づきあいの必要性を高く認め、実際にも、近所づきあいが社会的ネットワークの核を成していることが分かる。鎌倉の場合には、比較的少数ではあるものの、「近所づきあいは必要ない」(4%)、「近所づきあいはしたくない」(5.9%)と答える層が計10%にも達しており、無視できない。都市部での近所づきあいの難しさの一端が顔を覗かせているように思われる。
性別に分けてみても、大きな違いは認められない。年齢階層別にみても、大きな違いはなかった。
トゥルクの場合には、近所づきあいは、必ずしも社会的ネットワークそのものではないが、日本の場合には、近所づきあいこそが、家族以外の社会的ネットワークの中心となる場合が多いので、鎌倉の高齢者で、近所づきあいから離脱した人たちの行方は気にかかるところである。
7.地域生活についての価値観
近所づきあいについての価値観と同様、地域生活についての価値観もまた、高齢者の社会的ネットワーク形成に大きく関わるものであるが、日本とフィンランドとの比較では大きな違いが認められた。
日本では、鎌倉も御調も「地域の生活やしきたりに従って人と人との和を大切にする」がもっとも多かった(鎌倉50.4%、御調71.4%)が、トゥルクでは「地域社会は生活のよりどころなので、住民が協力し、住みやすくする」がもっとも多かった(46.7%)。これに加えて、トゥルクでは「不満や要求を出来るだけ市政その他に反映させてゆく」と答えた人も、日本に比べて際だって多い(13.5%)ことを合わせて考えると、鎌倉や御調の場合、地域への調和的融合派が多数を占めているが、トゥルクの場合には、地域への融合というよりは、地域へ積極的に参加し、地域を変えていくことを重視する人がより多数である。
日本の場合には、御調では、70%を越える人たちが、地域への融和や融合を第一に重視する価値観を表明しているが、鎌倉の場合には約半数に過ぎず、御調ほどは地域社会への融和を重視してはいないことが分かる。また鎌倉の場合には、ややトゥルクに似た傾向もあらわれており、
「地域の生活やしきたりに従って人と人との和を大切にする」が35.6%、「不満や要求を出来るだけ市政その他に反映させてゆく」が10.5%と、トゥルクほどではないが、御調よりもかなり高くなっている。地域生活についての価値観に関しても、鎌倉は、都市化の影響をうけて、伝統的な地域共同体観と、欧米的な地域社会を、自分たちで作っていく対象としてみるコミュニティ的な見方とが、混在していることが分かる。
男女別にみると、男性よりも女性に「地域の生活やしきたりに従って人と人との和を大切にする」と答える人が多いことが分かる。これは3地点に共通した傾向であった。また「地域社会は生活のよりどころなので、住民が協力し、住みやすくする」は、女性よりも男性がより多く選択している。これも3地点共通の傾向であった。
年齢階層別にみると、「地域の生活やしきたりに従って人と人との和を大切にする」は、3地点でともに、年齢があがるほど、より選好される傾向が認められた。はんたいに、「地域社会は生活のよりどころなので、住民が協力し、住みやすくする」は、年齢が上がるほど選択する人の比率が減少する傾向が見られた。
8.定住意志
では、地域への定住意志は、どうであろうか。地域への定住意志は、地域の住み心地や、家族を含む社会的ネットワーク、地域のサポート・ネットワークの機能、福祉サービスなどとも総合的に関連してくるものだと考えられる。
日本とフィンランドとの比較でみると、「これからもずっと住み続ける」と答えたのは御調でもっとも多く(92.7%)、ついで鎌倉(81.2%)だが、トゥルク(65.1%)と比較すると日本の高齢者の地域への定住意志はきわめて高いことがうかがわれる。トゥルクの場合の特徴は、「これからもずっと住み続ける」と答える層が少ないことと、「移りたいというわけではないが、いずれ移らざるをえない」(16.1%)と答える人が日本にくらべて高いことである(「いずれ移らざるをえない」は、御調ではわずか3.1%、鎌倉でも7.7%である)。定住意志の場合には、希望的観測も含まれていることに留意しなければならないが、御調の場合に、「これからもずっと住み続ける」という答えの背後にあるのは、家族との同居率が高く、実際、居住地域を離れなければならない社会的条件が少ないこともあげられよう。トゥルクの場合には、家族と同居して老後を過ごすというライフスタイルがないことから、高齢者は、いつまでも同じ家屋に住み続けられるとは考えておらず、いずれ、施設等に入居することを、実際に施設に入居するよりも前から考えていることを、このデータは示しているのではないだろうか。同様に、トゥルクでは、「いまのところは決めていない」(13.0%)も、御調(2.7%)や鎌倉(8.0%)よりかなり高い。
男女別にみても定住意志に大きな違いは認められない。また年齢階層別にみても、大きな違いはなかった。回答者の健康状態別にみた定住意志には、興味深い違いが見られた。鎌倉では、全く健康だという場合には定住意志がきわめて高い(96.3%)が、健康でなくなるにしたがって減少し、「全く健康でない」になると72.4%になる。しかし、御調では、健康状態による定住意志の違いがきわめて少なく、「全く健康でない」という人でも94.2%が「ずっと住み続ける」と答えている。これは、御調の完備した保健・福祉サービス体制によるものと思われる。トゥルクの場合には、健康状態は、あまり定住意志に有意な影響及ぼしていない。
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